業務プロセス可視化とは、業務の流れや関係者、判断、使うシステムを「誰が見ても同じ理解」になる形で整理し共有することです。本記事では定義と目的、始まるきっかけ、進め方の基本を初心者向けに3章で解説します。
業務プロセス可視化とは(定義と「見える化」の範囲)
業務プロセス可視化とは、「業務がどう流れているか」を第三者にも同じ解釈で共有できる状態にすることです。 多くの人は「業務フロー図(フローチャート)を描くこと」を思い浮かべますが、実務ではそれだけでは不十分なことが多く、 一覧表・データ・関連文書との紐付けまで含めて考えると、現場で“使える可視化”になります。
そもそも業務の改善、システム刷新、DX推進など、何かを変えようとする時に必ずぶつかるのが 「現状が見えていないと、判断も交渉もできない」という壁です。 だからこそ業務プロセス可視化は、改善施策の前段として位置づけられます。
業務プロセス(プロセス)とは何か
「プロセス」とは、ざっくり言うとインプット(入力)→処理→アウトプット(出力)の連鎖です。 たとえば「請求処理」を例にすると、請求書データ(入力)を受け取り、確認・承認・計上(処理)を行い、 支払い・仕訳・保管(出力)へつながります。
重要なのは、業務は単発の作業ではなく“流れ”として成立していることです。 どこか1点だけを見ても全体の効率は上がりませんし、問題が起きたときも原因が特定できません。 だから可視化では「作業の中身」だけでなく、前後関係・関係者・判断ポイント・利用システムまで含めて捉えます。
| 要素 | 具体例 | 可視化で分かること |
|---|---|---|
| インプット(入力) | 申請書、注文書、メール、CSV | 「何を受け取って開始するか」 |
| 処理 | 確認、承認、登録、計算、連絡 | 「誰が、どの順で、何をするか」 |
| アウトプット(出力) | 請求書、支払い、レポート、台帳 | 「何が完成物で、どこに渡るか」 |
| 判断・分岐 | 金額が閾値以上なら承認追加 | 「例外処理がどこで起きるか」 |
| 利用システム | ERP、ワークフロー、Excel | 「どの工程がどのシステムに依存するか」 |
このように、プロセスを“流れとして”分解して捉えることで、 改善や刷新の議論が「感覚」ではなく「構造」に基づいて進められるようになります。
業務プロセス可視化の定義
業務プロセス可視化を一文で定義すると、次のようになります。
現状の業務の流れ・関係者・判断・使用システム・成果物を、第三者にも同じ理解で共有できる形にすること。
ここでポイントになるのは、「見える化した本人が分かる」では足りない点です。 可視化の目的は、組織として同じ認識を持つことにあります。 たとえばシステム刷新の場面で、現場・情報システム・ベンダーがそれぞれ違う前提で話してしまうと、 要件定義はブレ、導入後に「思っていたのと違う」という事故が起きやすくなります。
逆に言えば、可視化ができている状態とは、 「誰が見ても同じ説明ができる」状態です。 その状態をつくるために、フロー図(流れ)だけでなく、周辺情報もセットで整理していくことが実務では重要になります。
「見える化」の範囲:図だけではない
業務プロセス可視化は、フロー図を描いて終わりではありません。 実務でよく起きるのが、「図はあるけど、結局どこに何があるのか分からない」「更新されずに陳腐化した」という状態です。 それを防ぐには、“図+一覧+関連情報”のセットで考えるのが効果的です。
- フロー図(業務の流れ):誰が何をして、次にどこへ渡すかを俯瞰する
- 業務一覧(棚卸・属性情報):業務の名称、担当、頻度、リスク、使用システムなどを整理する
- 関連情報(根拠・成果物):帳票、手順書、規程、マニュアル、URL、保管場所などを紐付ける
特に「関連情報の紐付け」は、運用フェーズで効いてきます。 たとえば業務フローを見て「この工程の根拠はどの規程?」「入力に使う帳票はどこ?」と聞かれたときに、 すぐ辿れないと、可視化は“使われない資料”になってしまいます。
逆に、フロー図の各工程に対して、帳票・手順・規程・URLなどが整理されていると、 業務が“管理できる状態”に近づきます。 この状態になると、改善(ムダの特定)、刷新(要件の明確化)、BPO(切り出し判断)などが一気にやりやすくなります。
まとめると、業務プロセス可視化とは 「業務の流れを図で示し、必要な情報を紐づけ、組織で同じ理解を作ること」です。 ここまでを“可視化の範囲”として捉えると、次の章で扱う「なぜ必要か」「どう進めるか」が腹落ちしやすくなります。
なぜ業務プロセス可視化が必要なのか(目的と始まるきっかけ)
業務プロセス可視化が必要とされる理由を一言で言うなら、「見えないものは管理できない」からです。 業務を改善したい、システムを入れ替えたい、DXを進めたい――こうした“変化”の意思決定はすべて、 現状が分からないと始まらないという共通点があります。
現場でよく起きるのは、「なんとなく非効率だと思う」「このシステム、使いにくい」といった感覚はあるのに、 どこがボトルネックで、誰が困っていて、何が原因なのかを説明できない状態です。 可視化は、そうした“感覚”を議論できる形(構造)に変換するための土台になります。
目的の3分類:業務改善・システム刷新・DX
業務プロセス可視化にはさまざまな目的がありますが、はじめての方が理解しやすいように、 ここでは代表的な目的を3つに整理します。
| 目的 | よくある状況 | 可視化で得たいこと |
|---|---|---|
| 業務改善(効率化・コスト削減) | ムダが多い/納期が遅い/手戻りが多い | ボトルネック特定、ムダの見える化、改善点の合意形成 |
| システム刷新(現状把握) | 老朽化で入替が必要/要件が曖昧 | 現状業務の整理、要件定義の精度向上、ベンダー交渉力の確保 |
| DX(プロセス改革) | 新しい運用へ転換したい/部門横断が必要 | 現状→あるべき姿のギャップ整理、新プロセス設計の前提づくり |
それぞれもう少し噛み砕くと、次のようなイメージです。
- 業務改善:まず現状を見える化し、どこにムダ・手戻り・停滞があるかを“特定”するため。 例えば「コストを下げたい」「納期を短縮したい」といった目的が先にあり、可視化はそのための手段になります。
- システム刷新:入替時に「今の業務がどう動いているか分からない」状態だと、要件がブレます。 可視化により、現状業務・利用システム・データの受け渡しを整理し、判断と交渉ができる状態を作ります。
- DX:DXは単なるIT導入ではなく、プロセス改革(新しいやり方を作る)です。 現状を把握しないまま新しい仕組みを入れても定着しにくいので、可視化でギャップを明確にします。
なお、「品質管理(業務品質の維持・担保)」も重要な目的です。 これは業務改善と近い領域ですが、より標準化・逸脱の検知・再発防止に寄った目的と言えます。
始まるきっかけ:やらざるを得ない状況が多い
業務プロセス可視化は、理想としては「継続的に改善する文化」の中で進むのが望ましい一方で、 実際には“やらざるを得ない状況”に追い込まれて始まるケースが多いのが現実です。
代表的なきっかけは次の通りです。
- システム老朽化:古いシステムを入れ替える必要が出て、現状業務の把握から始めざるを得ない
- DX/ビジネスモデルの変化:新しい運用や部門横断の仕組みを作る必要が出て、現状整理が必要になる
- 俗人化・退職リスク:特定の人だけが分かる業務があり、その人が辞めると回らなくなる
- 組織再編・M&A・経営統合:重複業務の整理や統合プロセスの再設計が必要になる
- 業績悪化による立て直し:コスト構造の見直しや効率化のため、業務全体を洗い出す必要が出る
ここで押さえておきたいのは、どのケースも「現状が分からないと前に進めない」という点です。 たとえばシステム刷新で「業務をベンダーに丸投げ」してしまうと、ベンダー主導で話が進み、 使いにくいシステムになったり、費用だけ膨らんだりといった失敗につながりやすい。 そのリスクを減らすためにも、可視化で自社の業務を把握し、判断できる状態を作ることが重要になります。
日本と海外の背景:QC文化と多文化環境
業務プロセス可視化が広がってきた背景には、文化・歴史的な要因もあるかもしれません。日本は製造業のQC(品質管理)文化が可視化の土台になっているという考え方も納得できます。
製造業では品質を保つために、工程(プロセス)を明確にし、標準手順を作り、 問題が起きたら「どこで逸脱が起きたか」を工程に照らして分析します。 この考え方が、事務系業務にも応用できる可視化の発想につながっています。
一方で、海外(特に多文化環境)では、可視化がより進みやすい事情があります。 バックグラウンドや文化が異なる人同士が協働するため、 「言わなくても伝わる」「暗黙の了解」といった前提が成り立ちにくい。 その結果、業務を明確化して共有することが意思疎通の前提として求められます。
逆に日本では、同じ言語・同じ文化圏で業務が回りやすい分、 暗黙知・阿吽・職人文化に頼っても成立してしまう場面があります。 しかしこの状態は、担当者が変わった途端に崩れやすく、俗人化や引き継ぎリスクにつながります。 だからこそ、変化が起きたとき(刷新・統合・退職など)に“やらざるを得なくなる”わけです。
まとめると、業務プロセス可視化は「流行の施策」ではなく、 変化に耐えるための“業務の基盤整備”です。 次章では、実際に「どう進めるか」「最初の一歩でつまずかないための考え方」を整理していきます。
どう進める?はじめての業務プロセス可視化(方法・対象・つまずき)
はじめて業務プロセス可視化に取り組むとき、つまずきやすいのは「何から手を付けるかが分からない」ことです。 いきなり完璧なフロー図や手順書を作ろうとして、途中で止まってしまうケースも少なくありません。
そこでここでは、最初の一歩で失敗しないために、 ①表現方法(どう描くか)、②対象選び(何をやるか)、③つまずき(どこで止まるか)を 3点セットで整理します。これだけ押さえると、実務での進め方がかなり楽になります。
表現方法:基本はフローチャート(俯瞰と相関が見える)
業務を可視化する方法はいくつかありますが、基本はフローチャート(業務フロー図)です。 理由はシンプルで、全体の流れ・前後関係・相関関係を一目で共有しやすいからです。
たとえば箇条書きで手順を書いても、「どの工程がどの工程につながるのか」「誰から誰へ渡るのか」 「どこで分岐するのか」といった構造が見えにくく、議論がかみ合いません。 その点、フローチャートは“流れ”を前提に作るので、関係者間で合意を作りやすいのが強みです。
| 表現方法 | 得意なこと | 弱いところ(つまずき) |
|---|---|---|
| フローチャート | 流れ・分岐・関係者の俯瞰、相関が分かる | 細かくしすぎると複雑化して止まりやすい |
| 箇条書き | 手順の説明、文章としての補足 | 全体像や前後関係が見えにくい |
| 一覧表(業務一覧) | 棚卸・属性(担当/頻度/リスク/システム)整理 | 流れそのものは表現しづらい |
まずはフローチャートで「全体を俯瞰できる形」にし、そのうえで必要に応じて一覧表や文章で補足するのが、 初心者にとって最も安定する進め方です。
粒度の決め方:粗く書く→必要なら詳細化
最初の失敗あるあるは、いきなり手順書レベルまで細かく書こうとすることです。 細かくしすぎると、例外処理が増え、関係者への確認も増え、作業が止まりやすくなります。
コツは、粗く書いて全体像の合意を先に作ること。 まずは「主要な工程」「関係者」「分岐ポイント」までを大枠で描き、全員が同じ業務を見ている状態を作ります。 そのあとで、目的(改善・刷新・DX・BPOなど)に応じて必要な箇所だけ詳細化していくと、スムーズに進みます。
- Step1:全体像(粗い粒度)…工程名レベルで流れを作り、合意する
- Step2:重要箇所だけ詳細化…ボトルネック、システム連携点、リスクの高い工程など
- Step3:必要なら手順書化…運用・引き継ぎ・監査など、目的が明確な場合のみ
この順番にすると、「作ったけど使われない」「完成しない」といった失敗を減らせます。
対象選び:定型業務から始める(可視化しやすい)
次に重要なのが「何を可視化するところから始めるか」です。 結論としては、定型業務から始めるのが最も成功確率が高いです。
定型業務とは、毎回ほぼ同じ手順・同じ流れで回る業務のことです。 例としては、経理、総務、人事、購買、請求処理、支払い処理などの管理系業務が分かりやすいでしょう。 こうした業務はパターン化されているため、フローに落としやすく、可視化の成果が出やすいのが特徴です。
逆に、イレギュラーが多い業務や、特殊な判断が多い業務は、粒度を上げるほど例外が増えて難易度が跳ね上がります。 「まず成功体験を作る」という意味でも、定型業務は入口としておすすめです。
営業・コンサルはどこまで可視化できる?
「営業やコンサルの仕事も可視化できますか?」という質問はよく出ます。 ここは誤解されやすいポイントですが、結論は“外形(型)”は可視化できる、ただし“中身”は粒度次第です。
たとえば営業なら、「見積を作る→提案する→受注する→営業事務へ引き渡す」といった業務の流れ(外形)は可視化できます。 一方で、顧客とのやり取りは状況で変動するため、細かく手順化しようとすると例外だらけになり、止まりやすくなります。
- 可視化しやすい:見積作成、承認、契約、受注処理、引き渡し、請求などの定型部分
- 難しくなりやすい:ヒアリングの深掘り、交渉、提案の組み立てなど、相手次第で変動する部分
もし営業・コンサル領域を扱うなら、最初は「型(外形)」を粗い粒度で可視化して、 必要に応じて「判断基準」や「成功パターン」を別紙(チェックリストやナレッジ)として補完する方が現実的です。
つまずきポイント:Excelで始めて詰まる/書き方が分からない
実務で特に多い“つまずき”は、次の2つです。
- Excelで描き始めて、作業効率と維持で詰まる
- そもそもフローチャートの書き方が分からず、進まない
まず1つ目。多くの企業は「まずはExcelで…」と始めます。 ただ、箱の挿入・矢印の調整・レイアウト修正などが増えるほど、作業効率が落ちます。 さらに、業務は変化するので、更新・維持を前提にすると手間が雪だるま式に増えるのが問題です。
2つ目はより根本的で、フローチャートを書いた経験がないため、研修や書籍で学んでも手が止まるケースです。 この状態で無理に進めると、成果物の粒度が揃わない、抜け漏れが出る、目的に合わない――といった失敗につながります。
つまずきの典型パターンを整理すると、こんな流れになります。
- 「現状が見えない」ので可視化が必要になる
- まずはExcelやPowerPointで作り始める
- 書き方が分からない/作業効率が悪い/更新が地獄になる
- 「自社だけでは難しい」となり、研修・外部支援・ツール検討へ進む
次の一手:専用ツール検討と「管理・共有」の発想
つまずきが見えてきたら、次の一手として「専用ツール」を検討する流れになりますが、 そのときに大事なのは、単に“描きやすいか”だけで選ばないことです。
可視化は作って終わりではなく、運用では更新・共有・管理が必ず発生します。 だからツール検討では、次の観点をセットで持つと判断がブレにくくなります。
| 観点 | チェックポイント |
|---|---|
| 描画・修正のしやすさ | 箱の追加・入替・レイアウト修正が直感的にできるか |
| 関連情報の紐付け | 帳票・規程・手順・URLなどを工程にリンクできるか |
| 共有と版管理 | 社内で同じ版を見られるか/更新履歴や管理ができるか |
| 出力(一覧・レポート) | 業務一覧や統制観点など、目的別アウトプットに展開できるか |
こうした視点で選ぶと、「結局は管理できずに形骸化した」という落とし穴を避けやすくなります。 “描く”から“管理する”へ発想を一段引き上げることが、はじめての可視化を成功させるコツです。
【まとめ】業務プロセス可視化とは?はじめての人向けに基本と全体像を解説
業務プロセス可視化とは、業務の流れや関係者、判断、使うシステムや成果物を「誰が見ても同じ理解」になる形で整理し、共有できる状態にすることです。可視化は業務改善・システム刷新・DXの土台になり、まずは定型業務をフローチャートで粗く描いて全体合意を作るのが近道です。描くだけで終わらせず、関連情報の紐付けや更新・共有まで見据えると、運用できる可視化になります。
- 可視化の本質は「見えないものは管理できない」ため、管理可能な形にすること
- 目的は大きく3つ:業務改善/システム刷新(現状把握)/DX(新しいやり方づくり)
- 表現はフローチャートが基本。粒度は「粗く→必要箇所だけ詳細化」
- 対象は定型業務から。イレギュラーが多い業務は難易度が上がる
- Excelで詰まりやすいので、管理・共有・紐付けまで含めて進め方を設計する


